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Trackback の仕組みはありませんので、コメントにでも残していただくと嬉しいかも、です。

LTGuide

はじめに

エンジニアマインド Vol.3


本ページは、技術評論社の雑誌「エンジニアマインド」の Vol.3 に掲載された記事 『ライトニングトークス入門』の記事を、 編集部の承諾のもと、公開するものです。まずは快諾をいただいた、編集部に感謝致します。

また、この記事は懸田剛さんの担当されたパートと、私の担当したパートの2部構成になっております。 本ページで公開するのは私の担当分の「ライトニングトークス水先案内」となります。 懸田さん担当分の「ライトニングトークスの歴史」については、下記URLの懸田さんのWebページにて公開しておりますので、 是非併せてお読み下さい。

雑誌に掲載された記事であり、Web上の文章としては不自然な箇所やあるかもしれませんが、ご了承下さい。 また2007年3月に刊行された雑誌であることをご考慮の上、読んでいただければと思います。

また、掲載前に査読していただいた佐藤祐介さん、加えてインタビューにご協力いただいた竹迫良範さん・角谷信太郎さんに深く感謝致します。

お読みになった感想などをいただけると、幸いです。

それでは、記事をどうぞ。

ライトニングトークス入門(天野担当分)

筆者について

名前
天野 良
所属
XPJUG
筆者紹介
都内の某メーカー系ソフトハウスに勤務するエンジニア。保有資格は、もう長らく操縦していないけれど熱気球のパイロットライセンス。大学の専門は昆虫生態学だったのでナチュラリスト属性もある。XPJUGスタッフ。好きなPFのツールは「偏愛マップ」。

リードの文章

ライトニングトークス(LT) という言葉を聞いた事があるでしょうか。オープンソース関連コミュニティやアジャイル開発界隈コミュニティの開催するイベントに参加したことがある人なら、知っているかもしれませんね。

知らないという人も、安心してください。本稿では、2章に分けてライトニングトークスについて紹介します。最初にライトニングトークスの開催される経緯などの歴史を解説し、次にそれを聞く、そして話す際のちょっとしたガイドをいたします。

それでは、ライトニングトークスの世界へようこそ。

ライトニングトークスの歴史

懸田剛さんのサイトをご覧下さい。

ライトニングトークス水先案内

どこで/どうやって聞く?

前章で、ライトニングトークス(以下、LT)の歴史については理解いただけたと思います。 いままで知らなかった方も「なんだか面白そう」と感じたのではないでしょうか。 では、どうすれば聞けるのでしょうか。 前章にも大まかに解説されていましたが、次節以降にいくつか紹介してみます。

なお、本稿の中ではプログラム全体を指して「LT」、 個々の演目を「トーク」、トークをする人(またはグループ)を「トーカー」と表記します。

紙面の都合上、紹介は名前のみになってしまうものが多いのですが、 個々のイベントについて詳細を知りたい場合はイベント名をキーに検索してみて下さい。 トークの具体例についても、なるべく簡単な説明を書くように心がけましたが、 興味をもったものがあればトーカー名や演題で検索することでより詳しく知る事ができるでしょう。

> LL/OSS関連のイベントで聞く

前章で紹介した通り、日本でのLTの発祥はYARPCというRuby/Perlのイベントでした。 以来、ライトウェイト・ランゲージ(LL) と呼ばれる開発言語や、 オープンソースソフトウェア(OSS)関連のコミュニティが催すイベントではLTが行われる事が多いようです。 これは前章で、「ハッカー文化」のトーク、と呼んでいたものです。

例えば、前章掲載の一覧表から2006年にLTの行われたイベントの一部を抜粋すると、以下のようなものがあります。

  • Linux Conference 2006 (6/2:3日目)
  • RubyKaigi 2006(6/11:2日目)
  • LL Ring (8/26)
  • Shibuya.pm テクニカルトーク#7 (10/20)

いずれも、2007年にも開催が決まっていたり、開催が予想されるものですので、参加してみるとよいでしょう。

なお、LL関連コミュニティにおいて、技術と笑いの高次元な融合で毎回楽しませてくれる偉大なトーカーである、 竹迫良範さんに簡単なメールインタビューをしたものをコラムとして載せていますのでご参照下さい。

> アジャイル文化のイベントで聞く

もうひとつLTが盛んに行われているのが、アジャイル文化のコミュニティです。

具体的には、筆者や前章を執筆した懸田さんもスタッフをやっている日本XPユーザーグループ(XPJUG)や、 平鍋健児さんが主宰するオブジェクト倶楽部のイベントです。 厳密にはオブジェクト倶楽部はアジャイル開発に特化したコミュニティではないのですが、 運営スタッフやイベント参加者にはアジャイル開発に関心の高いメンバーが多い事から、まとめて紹介します。

XPJUGでは、数ヶ月に一度行われるユーザ会や、1年に一度のXP祭りにてLTがあります。 特に2006年5月に行われた第15回ユーザ会では「トーカーイジリナイト」として、LTをメインに据えたイベントも行いました。

オブジェクト倶楽部でも夏冬のイベントのLTのレベルの高さには定評があります。 また、2006年11月には過去のイベントで特に評判の良かったトーカーを招いてのイベントも行われました(筆者もトークさせていただきました)。

XPJUGやオブジェクト倶楽部においても、LTはイベントの一つの目玉として今後も企画されていきますので、楽しみにしていて下さい。

こちらのコミュニティからは、熱い想いとよく練られたスライドで聞いている人を魅了する、 角谷信太郎さんにメールインタビューをしてあります

> その他のイベントで聞く

上で紹介した2つのコミュニティから派生したコミュニティ、 もしくはまったく異なるコミュニティのイベントでも最近はLTが行われています。

例えば、高林哲さんの呼びかけで行われたBinary 2.0 カンファレンスや、 依田忠高さんが取りまとめているプロジェクトファシリテーションプロジェクト(PFP)のワークショップでLTが行われました。

あるいは本稿執筆時点ではまだ開催されていません(本誌発行の頃には終わっています)が、 ソフトウェアテストシンポジウム2007 においてもLTが行われるようです。

5分ではなく10分という変則的な時間制限でしたが、 デベロッパーズサミット2006においてもLTが行われた実績があります。

> 自宅/職場で聞く

ここまで紹介したような様々なイベントは、東京圏や大阪圏などでの開催が大多数です。 中には、LTだけが目的ではないにせよ、遠くから参加される方もいますし、 そういう方々に会うのはこの手のイベントの一つの醍醐味でもあります。

しかし、筆者も以前は北海道で働いていたのでわかりますが、 地方に住む人にとってなかなか気軽に参加できないのも事実です。 また、地理的な条件は問題なくても、業務やその他の都合で参加できない場合も往々にしてあります。

このような場合でも少しでも楽しめるように、 近頃のネットワークインフラの普及に対応して、 イベントによってはLTのリアルタイムストリーミングや、 動画共有サイトでの後日公開を行うケースも出てきました。

さらに、多くのイベントでは各トーカーの使った資料を、後日Web公開しています。 イベントサイトには用意されない場合でも、個人のBlogなどに自分の資料を公開するトーカーもいます。

このような資料は、イベントに参加できなかった人だけでなく、参加した人にも意味があります。 LTが5分で強制的に中断させられることを考えると、 「あのトークの聞けなかった後半」を確認することが出来るからです。

いずれにせよ、自宅や職場でもLTの雰囲気を楽しむ術があることを紹介しました。

ここまで紹介した各イベントは、セッションプログラムも大変充実していますので、 LTを聞く目的を除いても、参加を検討する意義は大きいと思われます。

内容による分類

ここまでくれば、LTの魅力を味わうには実際に聞いてもらうのが一番手っ取り早く、 また確実なのですが、少し分類をしてみたいと思います。 筆者は生物学が専門だったので、まずは分類なのです。少々、お付き合い下さい。

分類といってもいろんな切り口が考えられます。 前章で書かれていたものをさらに整理して、ここでは内容によって大きく次の4タイプに分けてみました。

  • 実装披露系
  • 実践報告系
  • 考察系
  • エンタテイメント系

もちろんあるトークが一つのタイプに完全に収まるわけではなく、この要素が強い、くらいのものです。 さらに、これら4つの枠には収まらないタイプのトークも存在するでしょう。

では、順に見ていきます。

> 実装披露系

トーカーは本誌を手にしている多くの皆さんと同様、ソフトウェア・エンジニアを職業にしていたり、 趣味でソフトウェア開発をしている人が殆どですから、 当然「こんなソフトを作ってみたので、紹介します」という内容のトークがたくさんあります。 これを実装披露系としてみました。 特に開発言語やオープンソース系のコミュニティでは、このタイプのトークの割合が高いです。

例えば、インタビュー掲載の竹迫さんによるppencodeのトークが有名です。 どれくらい有名かというと、本家海外のイベントにも「輸出」されているほどです(参照:ppencode buzz at OSCON 2006)。

これらのソフトには大変有用なものもありますし、一見使いどころに悩むものもあります。 一つ共通するとすれば、きっとトーカー自身は楽しんでそれを作った、という点です。 聞く側もその楽しさをきっと感じることが出来る筈で、 それこそがこのタイプのトークを聞く一番の醍醐味と言えましょう。 「おお、すげぇ」というシンプルな驚きを楽しみましょう。

また、このタイプの中にはトーク中にデモを行い、 実際に動作する様子を見せるものが多いのも特徴です。 テスティングフレームワークの紹介などでは、その場でコードを入力して動作させる場合すらあります。

さらに特殊でかつ面白いケースとしては、トークのプレゼン自体が実装の披露になるパターンがあります。 2006年12月15日に行われたBinary 2.0 カンファレンスの八重樫剛史さんのトークでは、 PS3用のLinux上に3Dライブラリを用いて作成したプレゼン環境を実際に使ってのトークを見る事ができました。 さらにその操作には任天堂のWiiリモコンを使用するという、大変楽しめる内容でした。

ソフトだけでなく、芦沢嘉典さんによるXFD(eXtreme Feedback Device)の紹介のように、 ハードウェアの実装披露トークもあります。(図1)

Fig1.png

図1. XFDの紹介スライドの1枚「がっくしロボ」

> 実践報告系

次は実践報告系です。 これは主にソフトウェア開発を進めて行く上でのアクティビティやプラクティスに注目し、 自分(または自分たち)がどんな実践を行っているのかを紹介するものです。 ちょっとしたライフハック的なものから、チーム運営の要となるプラクティスの紹介まで様々なものがあり、 XPJUGやオブジェクト倶楽部のLTに多く見られます。

例えば筆者は、バーンダウンチャート・ニコニコカレンダー・かんばんnano、 といった実践例をLTによって知りました。 (それぞれどのようなものかは、コラム「トークと名前付け」をご覧下さい)

ソフトウェア開発とは一見関係ない日常の活動を紹介するトークもあります。 多くの場合、そのようなところからソフトウェア開発の世界に結びつけて話をつなげていきます。 これは次の考察系トークでも言える事ですが、 そのような半ば強引といえる部分こそが、楽しみどころになるわけです。 例えば、小島富治雄さんによる「メタボリック症候群からの視点変換」があります。

このタイプのトークは単に面白いだけでなく、トークを一つの起点として、 先に挙げたバーンダウンチャートやニコニコカレンダーのように聞いていた人を介して 実践が伝播していくことが往々にしてあります。 LTの影響力の高さを実感せずにいられません。

> 考察系

ここまでの2つが「為したこと」を話の中核にしているのに対し、 考察系のトークは「こんなことを考えてみました」が話のメインになります。

実践報告系トークの説明でも触れた通り、やや強引な話の持っていき方を楽しむもの、 そしてかなり正面から真面目な考察を行うものもあります。 はたまた、ネタのように見える考察でも本人は結構真剣だったりする場合もありますし、 味わいどころは千差万別といったところです。

なにより、いま展開しているこの分類自体が本稿を書くにあたって筆者が行った考察です。 実は、LTについて考えるメタ・考察として 「そのままトーク1回分のネタにできそうだな」と筆者は考えてしまいました。

このタイプのトークとしては、オブジェクト倶楽部クリスマスイベント2006のLTで 角野泰次さんが行った五十六メソッドのトークが記憶に新しいです。 なにしろ圧倒的な得票で「ベスト・トーカー賞」を獲った印象的なものでした。 (実践に基づく考察という意味で実践報告系の要素も多分にありますが)

ちなみに筆者は本稿執筆時点では6回のトークを行っていますが、 考察系に分類されるものが一番多く(4回)、得意なタイプと言えます。

>エンタテイメント系

ここでエンタテイメント系としたものは、 内容による分類というよりもプレゼン手法による分類に近いのですが、 ここまでの3つには収めにくいものとして挙げてみました。

筆者がこれまで出会って、印象に残っているものだけでも、以下のものがあります。

  • 歌う
  • 寸劇
  • ジャグリング(図2)
  • 会場を巻き込む (図3)

それぞれ、演者はとてもナチュラルにやっていたのが記憶に残っています。 逆に言うと無理してキワドいやり方でやっているわけではない、ということですね。

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図2. ジャグリングを実演するアジャグラーの面々

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図3. 抜群のファシリテーションで会場を巻き込みながらトークを進める本間直人さん

> 他の分類

ここに挙げたのは、あくまで筆者の切り口による分類に過ぎません。 プレゼン手法や話し方など、他の切り口ならば違う分類ができることでしょう。 読者の皆さんも、いろんなトークを聞いて(見て)、ぜひ自分なりに分類をしてみて下さい。

自分でも話してみる

本稿を書いた目的の一つは「皆にLTを知ってもらう」ことなのですが、 実はもう一つ「トーカーになってもらう」ことも目的としています。 そういうわけで、ここから先は「トークをする」ことに関して書いてみたいと思います。

> なぜトークをするのか

さて先ほど、オブジェクト倶楽部のLTはレベルの高さには定評がある、と書きました。 そんなことを聞くと、自分がトークをするのには、 なんだか敷居が高そうで尻込みしてしまう方もいるかもしれません。

しかし、発表の巧拙よりも大切なことは「ツタエタイコト」がある、という事実なのです。

トークはたかだか5分です。 「ライトニング」の名前の通り、すぐに終わります。 聞く方だって構えて聞いているわけではないのですし、 話す方がことさら構える必要は、まったくありません。 「スゴいコト」を話す必要だってありません。 「ツタエタイ」気持ちが重要だと、筆者は考えます。

分類の説明のところで、どんなタイプのトークであろうとも、 トーカー自身が楽しんでいるということを何回か書きましたが、 それはつまり「ツタエタイコト」を話しているからだと思います。

ある人のWeb日記に、こんな部分がありました。

LTは不参加にしたつもりなんだが、...(中略)...まぁ、いざとなれば、なんとでもなると思うが。

いつも何か「ツタエタイコト」があるって、素敵だなと思います。

何が、と言われると困ってしまうのですが、 この後少し触れるメリットを差引いても、 ごくシンプルに「聞くよりも話す方がより面白い」のです。

おそらくこれは、やってみないと分からないのですが、トークには一種の中毒性があります。 自分は不参加のLTも、聞いているうちになんだか出たくなることがある、 と証言するトーカーを、筆者は自分自身も含めて何人も知っています。

さて、その他具体的にはどんなメリットがあるでしょうか。 上述のように「ツタエタイコトを伝える面白さ」が第一なので、 少し後付け感のある内容かも知れませんが、思いつくところを挙げてみます。

まず思いつくのは、プレゼンの練習になることでしょう。

自分の言いたい事を5分程度にまとめるというのは、 意外と簡単ではないことに気づきます。 そうすると、話そうと思ったいくつかのポイントがあるとして、 その話す順番を工夫したり、 はしょってもいいものを考えたりすることになると思います。 実はもっと長いプレゼンでも同じことなのですから、 このまとめるプロセスはとても勉強になります。

角谷さんの言葉をお借りしますが、プレゼンは場数です。 場数をこなすのにライトニングトークはもってこいなのです。 いきなり50分の講演をやれと言われたら困りませんか?

それから、人脈ができます。

筆者は決していわゆる人脈マニアではないので、それ自体を目的にはしていませんが、 トークをしたことがきっかけになって貴重な知己を得たことも事実です。 これは、他のトーカーも同じ状況だと思います。

知り合いを増やしたい、だけど自分から話しかけるのは苦手、 という方(実は筆者もその1人です)にこそLTはよい場だと思います。 この手のイベントでは、公式・非公式問わずイベント後に懇親会があるのが一般的なのですが、 トーカーのところには、聞いた方々が向こうから話しかけて来てくれることが多いのです。

ネタを溜めて、まとめる

どんなことを話すかは、人によってまったく違うので内容自体にここで助言することはしません。 強いて言えば、内容による分類として挙げたタイプ分けが参考になるかもしれません。

しかし、どんなトークであれ、ネタ元があり、それを5分間にまとめたものになります。 このネタを普段から溜めておくと良いでしょう。 ネタを溜めて、そしてまとめる方法は、これまた人によって違って然るべきですが、 皆さんが普段使っている自分なりのメモ術・思考法を適用することになるかと思います。

メモ術や思考法に関しては、今はWeb上にも情報がたくさんありますし、 例えば"Life Hacks PRESS"(技術評論社, ISBN:4774127280)の各記事が参考になるでしょう。

例えば筆者は、腰リールメモ(詳しくは本誌掲載の水越明哉さんの記事「インテリジェントアナログガジェット『腰リール』」をご覧下さい) で思いついたネタを描きとめておいたり(図4-a,b)、 そのネタをさらに広げるためにマインドマップを利用しています(図5)

a:Fig4-a.jpg b:Fig4-b.png

図4. 「呑み会V字モデル」を思いついたときの腰リールメモ(a) と、実際のスライド(b)

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図5. 筆者のトーク「XPと生態学」の資料作成前に描いたマインドマップ

トークまでの流れ

実際にトークをする場合、具体的にどんな流れになるかのを、ざっと追ってみましょう。

>エントリ

まずは、エントリです。 イベントによっては、主催者側がトーカーを決めてしまっている場合もありますが、 トーカーを公募するイベントも多いです。

募集の方法は、イベント参加登録と同時に行う場合や、 一般登録の開始前に関連メーリングリストやBlogなどで行う場合があります。 どちらの場合も、いきごみや簡単な内容を書く事になるでしょう。

通常、LTの時間、つまり出られる組数は決まっていますから、 応募者多数の場合は先願順、または選考や抽選がおこなわれるかもしれません。

また、少し変わったエントリ方法としてはイベント当日その場で、 という「当日枠」が用意されているイベントもありますが、これはイレギュラーパターンだと思います。

一人ではやはり不安だという方でも、 知り合いとグループを作って複数人でエントリしてみるのも一案です。

全ての人向けではなくなってしまいますが、 某大手電機メーカーの社内イベントでもLTが行われているという話を聞いたことがあります。 もしそのような社内イベントがあるのなら、まずはそこにエントリして体験してみる手もあります。

>準備

前節を参考に、ネタを広げたり、まとめたりして下さい。 また、高橋メソッドなどのプレゼン手法もいろいろとあります。 公開されている過去のトークの資料も参考になると思います。

竹迫さんや角谷さんのインタビューでも、 これからトークをしてみる人へのアドバイスをいただいています。

本来は、この準備のところだけでも、 まとまった記事になるくらいのものだと思いますが、 本稿ではこの程度の簡単な記述にとどめます。

> 当日

さて、いよいよ当日です。

まず、肝心の5分という制限についてですが、 これについてもコミュニティやイベントによって 解釈に揺らぎがあります。

前のトークとのPCのつなぎかえや資料の表示といった交代時間は30秒、 それを過ぎたら強制的にカウントダウンが始まり(つまり交代にもたついたらその分トークの時間が減る)、 5分経ったら銅鑼が鳴って容赦なく終了、という大変ストリクトな場合もあります。

一方で、交代の時間は決まっておらず、トークの準備ができたところでカウントダウンが始まる運用の場合もあります。

さらには、5分を過ぎてもある程度は大目にみるイベントもあります。 ちなみに、筆者が見た最長のトークは12分のものです。

自分が話すLTはどのような運用か、 事前に主催者に確認しておくとよいでしょう。

ストリクトな運用は、特に交代時間にハプニングが起き易いのですが、 それすらも楽しみの一つなのです。 PCのVGA出力がプロジェクタに映らず、 とっさの機転で書画カメラを使ってMacBookの液晶画面を実体投影してプレゼンをした vestigeさんのトークは、ハプニングを通り越して感動ですらありました。

先ほども少し書きましたが、イベントの大きな楽しみの一つとして懇親会があります。 5分で全部話しきれなかった場合、「あの続きってどうなっているんですか?」 などと話しかけてもらう良いきっかけになる場合もあるので、5分で終わらなかったといって へこむことはまったくありません。 逆に言うと、少し残して銅鑼(やベル)を鳴らして終わるくらいがちょうど良いのかもしれません。

もちろん、ツタエタイコトが言えたのならば、5分以内に終わってしまっても何の問題もありませんし、 うまくまとめて時間内に終わるというのは、それはそれで達成感があるものです。

> 後日

冒頭でも書いた通り、資料の公開や自分のBlogでの言及、 イベントのトラックバックセンターへのトラックバックなどをすると良いと思います。 自分のトークについて言及している人を見つけることが出来るかもしれません。

自分の直前の順番のトークなどは緊張して良く聞けなかったかもしれませんし、 他のトークの資料を探しておさらいしてみるのも面白いでしょう。

さあ、あとはトークするしか!

どんな内容であっても、それを発表したという行動力自体に価値を感じてくれる人というのは、 少なからずいるものです。 失敗したって5分です。皆さんも、構えずにぜひトーカーをやってみてください。 いつかどこかで、皆さんのトークを聞けるのを筆者も楽しみにしています。

最後に

前章・本章を通じて、LTについて様々な角度から紹介しました。

たかが5分、されど5分の世界を少しでも知って興味を持っていただき、 そしてトークをやってみようかという気持ちになっていただけたら嬉しいです。

コラム - グレイト・トーカー・インタビュー

竹迫良範さん(サイボウズ・ラボ株式会社)

>ライトニングトークスの魅力はどんなところでしょうか?
  • 喋る立場としては、発表者としてイベントに参加することで特典があること
  • 聞く立場としては、5分なら退屈なプレゼンも我慢して聞けること
  • 運営する立場としては、新しい人材を発掘できること
> 自他問わず思い出に残るトークを3つ教えてください
  • LLDN夜自慢での早川さんのプレゼン(他人)
    • 残念ながら発表資料は公開されていませんが,感動しました
  • LLDN夜自慢 ppencode(自分)
    • 自分のプレゼンの方向性を決定付けた作品
  • YAPC::Asia 2006 Tokyo での Audrey Tang のトーク(日本語字幕を担当)
    • 頭が良い人のプレゼン,日本語翻訳を担当したときに感銘を受けました
>トークをする上で心がけている事があれば教えてください
  • 聞き手を飽きさせない工夫を(自分が聞き手の立場になったことを考える)
  • 真面目な内容に少しのユーモア(アイスブレイク重要)
  • 難解なメタファーは避ける(諸刃の剣)
  • プレゼンのメソッドにこだわりすぎない
  • できれば時事ネタを盛り込んでおく
> 練習はどのくらいされるのですか?

(お勧めできませんが)ぶっつけ本番です

> これからトークをやってみようという人に、なにか一言
  • 今はプレゼン用のツールやメソッドがたくさん普及しているので昔に比べて技術者のプレゼンの敷居は下がっているはずです
  • 5分ですべてを話す必要はないし,2分で終わっても良いでしょう
  • きかっけ作りの気持ちで気軽にトークしてみましょう

角谷信太郎さん(株式会社永和システムマネジメント)

>ライトニングトークスの魅力はどんなところでしょうか?

5分 x 11人 というフォーマット。

  • 聞く立場として: たくさんの話題と、たくさんのプレゼンスタイルに触れることができてお得
  • 話す立場として: 「ほんとうに自分が伝えたいこと」は何かを真剣に考える機会
  • 運営サイドとして: イベントのコンテンツを参加者と一緒につくっている感覚
>自他問わず思い出に残るトークを3つ教えてください
  • 「日本Rubyの会」設立について, 高橋征義さん(日本Rubyの会), LL Weekend 2004
    • プレゼンテーションはスピーチとスライドとの一体感であることを学びました。後に高橋メソッドと呼ばれるスタイルとの出会いでもありました。
  • デモ自慢(Rabbit), 須藤功平さん(VHS参加), LL Day and Night(Night)
    • このトークの後、自分のプレゼンツールをRabbitに変えました。良いトークは人を動かします。ちなみに現在は、諸般の事情によりKeyNote3を使っています……。
  • 怖い話ライトニングトークス, 角谷信太郎, オブジェクト倶楽部2004年夏イベント
    • 私のデビュートーク。大失敗しましたが、失敗しても5分。ふりかえると、この初回での大失敗が現在の自分のスタイルの基礎になっていると思います。オブジェクト倶楽部イベントとしても初のライトニングトークスでした。
>トークをする上で心がけている事があれば教えてください
  • 「伝えたい1フレーズ」を決めること
  • 「話さないこと」を決めること
  • 大事なことを最初に言うこと
  • スライド枚数をできる限り減らすこと
  • スライド1枚あたりの情報量をできる限り減らすこと
  • 謝辞をクレジットすること
  • 自分の名前を名乗ること
  • 聴衆にお礼を言うこと
  • スライド資料はできるだけ早く公開すること
>練習はどのくらいされるのですか?

直前までスライド資料をこねくり回していることが多いので、 リハーサル的な練習はやっていません(できません)。 ただ、スライド資料作成の終盤で、ブツブツと呟きながら、 スライドを最初から最後までめくる作業は何度もやっています。 話の流れの確認やスライドをめくるタイミングの把握が目的です。 これを30分ぐらいやっています。

>これからトークをやってみようという人に、なにか一言

あなたの思いを伝えられるのはあなただけです。 トークに成功すれば賞賛が得られ、失敗すれば教訓が得られます。 失うものは何もなく、得るものしかありません。 深呼吸してトークに臨んでください。 Happy Talking!

コラム - トークと名前付け

トークの5分という短い時間で聴衆になにかを伝えるには、印象深い名前付けが大きく寄与します。 良い名前付けができれば、そのトークは半分成功したも同然です。

LTから生まれた、または有名になった、 そんな「名前」をいくつか紹介してみましょう。

バーンダウンチャート
インタビュー掲載の角谷さんにより日本で初めて紹介されました
チームの過去・現在・未来を見える化する強力なグラフです
ニコニコカレンダー
坂田晶紀さんが実践を紹介したモチベーション見える化ツール
様々なカスタマイズとともにいろんな現場に浸透しています
かんばんnano
佐藤竜一さんによるタスク管理のためのツール
佐藤さんのトークではこれ以外にもたくさんのちょっとした工夫が紹介されました
五十六メソッド
角野泰次さんが本誌の前号(Vol.2)に掲載したチーム運営のヒント
「褒めるの0円」が合言葉
アジャグラー
和田憲明さんによるトーク「アジャイルとジャグリングの不思議な関係」であまねく紹介されました
アジャイル開発する人で、ジャグリングする人のこと

ツッコミ